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Perl 5 to 6 - オブジェクトとクラス

これはMoritz Lenz氏のWebサイトPerlgeek.deで公開されているブログ記事"Perl 5 to 6" Lesson 05 - Objects and Classesの日本語訳です。

原文はCreative Commons Attribution 3.0 Germanyに基づいて公開されています。

本エントリにはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedを適用します。

Original text: Copyright© 2008-2010 Moritz Lenz

Japanese translation: Copyright© 2011 SATOH Koichi

NAME

"Perl 5 to 6" Lesson 05 - オブジェクトとクラス

SYNOPSIS

class Shape {
    method area { ... }    # リテラル '...'
    has $.colour is rw;
}

class Rectangle is Shape {
    has $.width;
    has $.height;

    method area {
        $!width * $!height;
    }
}

my $x = Rectangle.new(
        width   => 30.0,
        height  => 20.0,
        colour  => 'black',
    );
say $x.area;                # 600
say $x.colour;              # black
$x.colour = 'blue';

DESCRIPTION

Perl6にはPerl5よりずっと洗練されたオブジェクトモデルがあります。クラス、ロール、アトリビュートやメソッドのためのキーワードがあり、カプセル化されたプライベートなアトリビュートやメソッドがあります。 これは(Perl6のオブジェクトシステムに影響を受けた)Perl5のMooseモジュールにとてもよく似ています。

クラスを宣言する方法は2通りあります。

class ClassName;
# ここにクラス定義を書く

1つはclass ClassName;で始まるもので、ファイルの終端までを範囲とします。 もう1つはクラス名にブロックが続くもので、ブロックの中身がクラス定義とみなされます。

class YourClass {
    # ここにクラス定義を書く
}
# 他のクラスやコード

メソッド

メソッドはmethodキーワードで宣言されます。メソッド中ではselfキーワードを使って呼び出し元オブジェクト(Invocant)を参照できます。

シグネチャリストの最初のパラメータに:を付けることで、読み出し元オブジェクトに別名を付けて参照することもできます。

パブリックなメソッドは引数を取らない場合は$object.method、引数を取る場合は$object.method(@args)あるいは$object.method: @argsという構文で呼び出すことができます。

class SomeClass {
    # 何もせずに呼び出し元オブジェクトを返す
    method foo {
        return self;
    }
    method bar($s: ) {
        return $s;
    }
}
my SomeClass $x .= new;
$x.foo.bar                      # $xと同じ

(my SomeClass $x .= newmy SomeClasss $x .= SomeClass.newの省略形です。型宣言がSomeClassクラスを表すオブジェクトである「型オブジェクト」を補完してくれます)

メソッドはサブルーチンと同様に他の引数も取ることができます。

プライベートメソッドはmethod !method_nameで宣言され、self!method_nameで呼び出せます。

class Foo {
    method !private($frob) {
        return "Frobbed $frob";
    }

    method public {
        say self!private("foo");
    }
}

プライベートメソッドをクラスの外から呼び出すことはできません。

アトリビュート

アトリビュートはhasキーワードで宣言され、シジルの後に特別な文字である「ツイジル(Twigil)」が付きます。プライベートアトリビュートには!、パブリックアトリビュートには.が付きます。 パブリックアトリビュートは単にパブリックなアクセサを持つプライベートアトリビュートです。 したがってアトリビュートの値を変更したい場合は、!ツイジルを使ってアクセサを介さずアトリビュート自身にアクセスする必要があります(アクセサがis rwである場合を除く)。

class SomeClass {
    has $!a;
    has $.b;
    has $.c is rw;

    method set_stuff {
        $!a = 1;    # OK、クラス内からのアトリビュートに対する書き込み
        $!b = 2;    # 同上
        $.b = 3;    # エラー、読み出し専用アクセサには書き込めない
    }

    method do_stuff {
        # パブリックな名前の代わりにプライベートな名前を使えます
        # $!bと$.bは同じものを表します
        return $!a + $!b + $!c;
    }
}
my $x = SomeClass.new;
say $x.a;       # エラー!
say $x.b;       # OK
$x.b = 2;       # エラー!
$x.c = 3;       # OK

継承

継承はisトレイトを使って行います。

class Foo is Bar { 
    # FooクラスはBarクラスから継承する
    ...
}

一般的な継承ルールはすべて適用されます——メソッドはまず実際の型の中で探索され、見つからない場合は親クラスを再帰的に探索します。派生クラスの型は親クラスの型としても振る舞います:

class Bar { }
class Foo is Bar { }
my Bar $x = Foo.new();

この例では$xの型はBarであり、「すべてのFooBarである」ためFooのオブジェクトが代入できます。

複数のクラスから多重継承できます:

class ArrayHash is Hash is Array { 
    ...
}

ロールと合成

世界は階層的にはできていませんから、何もかもを継承階層に押し込めるのが難しいこともあります。 これがPerl6にロールがある理由の1つです。ロールはクラスにとてもよく似ていますが、直接オブジェクトを作ることはできません。 クラスは型適合性の保証がその第一の目的ですが、ロールはコードの再利用を第一義としています。

role Paintable {
    has $.colour is rw;
    method paint { ... }
}
class Shape {
    method area { ... }
}

class Rectangle is Shape does Paintable {
    has $.width;
    has $.height;
    method area {
        $!width * $!height;
    }
}

SEE ALSO

http://perlcabal.org/syn/S12.html http://perlcabal.org/syn/S14.html

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