スキップしてメイン コンテンツに移動

Perl 5 to 6 - (似非)XMLのグラマー

これはMoritz Lenz氏のWebサイトPerlgeek.deで公開されているブログ記事"Perl 5 to 6" Lesson 20 - A grammer for (pseudo) XMLの日本語訳です。

原文はCreative Commons Attribution 3.0 Germanyに基づいて公開されています。

本エントリにはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedを適用します。

Original text: Copyright© 2008-2010 Moritz Lenz

Japanese translation: Copyright© 2011 SATOH Koichi

注記: XMLに関する用語の誤用(「整形式」と「妥当」を混同しているなど)がありますが、あくまで例なので原文通りに残しています。

NAME

"Perl 5 to 6" Lesson 20 - (似非)XMLのグラマー

SYNOPSIS

grammar XML {
    token TOP   { ^ <xml> $ };
    token xml   { <text> [ <tag> <text> ]* };
    token text {  <-[<>&]>* };
    rule tag   {
        '<'(\w+) <attributes>*
        [
            | '/>'                 # 空タグ
            | '>'<xml>'</' $0 '>'  # 開始タグと終了タグ
        ]
    };
    token attributes { \w+ '="' <-["<>]>* '"' };
};

DESCRIPTION

これまでの連載記事の焦点はPerl6言語であり、実装状況は気にしていませんでした。 これが空想上の言語でないことを示すため、またグラマーの能力を証明するために、このレッスンでは基本的なXMLを解析する、Rakudoで実行できるグラマーの開発をお見せします。

Rakudoの入手とビルドはhttp://rakudo.org/how-to-get-rakudoの指示にしたがって自分で行って下さい。

XMLの概念

私たちの用途の範囲ではXMLは非常に単純です: プレーンテキストと入れ子になったタグから成り、タグは属性を持つことがあります。 妥当なXMLであると(あるいはそうでないと)解析させたいテストケースをちょっとだけ用意しました:

my @tests = (
    [1, 'abc'                       ],      # 1
    [1, '<a></a>'                   ],      # 2
    [1, '..<ab>foo</ab>dd'          ],      # 3
    [1, '<a><b>c</b></a>'           ],      # 4
    [1, '<a href="foo"><b>c</b></a>'],      # 5
    [1, '<a empty="" ><b>c</b></a>' ],      # 6
    [1, '<a><b>c</b><c></c></a>'    ],      # 7
    [0, '<'                         ],      # 8
    [0, '<a>b</b>'                  ],      # 9
    [0, '<a>b</a'                   ],      # 10
    [0, '<a>b</a href="">'          ],      # 11
    [1, '<a/>'                      ],      # 12
    [1, '<a />'                     ],      # 13
);

my $count = 1;
for @tests -> $t {
    my $s = $t[1];
    my $M = XML.parse($s);
    if !($M  xor $t[0]) {
        say "ok $count - '$s'";
    } else {
        say "not ok $count - '$s'";
    }
    $count++;
}

これは「良い」XMLと「悪い」XMLのリスト、そしてXML.parse($string)を呼び出してテストを走らせる小さなスクリプトです。 言語全体にマッチするルールはTOPという名前にする約束になっています。

(テスト1で分かるように単一のルートタグを必須にしていませんが、この制限を追加するのは些細なことです)

グラマーの開発

XMLのキモは当然タグの入れ子構造ですから、まず2番目のテストに着目することにしましょう。 テストスクリプトの先頭に以下のコードを置いて下さい:

grammar XML {
    token TOP   { ^ <tag> $ }
    token tag   {
        '<' (\w+) '>'
        '</' $0   '>'
    }
};

それからスクリプトを実行します:

$ ./perl6 xml-01.pl
not ok 1 - 'abc'
ok 2 - '<a></a>'
not ok 3 - '..<ab>foo</ab>dd'
not ok 4 - '<a><b>c</b></a>'
not ok 5 - '<a href="foo"><b>c</b></a>'
not ok 6 - '<a empty="" ><b>c</b></a>'
not ok 7 - '<a><b>c</b><c></c></a>'
ok 8 - '<'
ok 9 - '<a>b</b>'
ok 10 - '<a>b</a'
ok 11 - '<a>b</a href="">'
not ok 12 - '<a/>'
not ok 13 - '<a />'

つまりこれは一対の開始タグと終了タグのペアを解析する単純なルールであり、妥当でない4つのXMLをきちんと排除できています。

1番目のテストも同様に簡単に通るように、次のコードを試して下さい:

grammar XML {
    token TOP   { ^ <xml> $ };
    token xml   { <text> | <tag> };
    token text  { <-[<>&]>*  };
    token tag   {
        '<' (\w+) '>'
        '</' $0   '>'
    }
};

(<-[...]>は否定形の文字クラスだったことを思い出して下さい)

それから実行します:

$ ./perl6 xml-03.pl
ok 1 - 'abc'
not ok 2 - '<a></a>'
(残りはさっきと同じ)

どうして2番目のテストは動かなくなったのでしょう? その理由はRakudoが最長トークンマッチをまだ実装しておらず、順番にマッチングを行っているからです。 <text>は空文字列に(つまりいつでも)マッチするので、<text> | <tag><tag>とのマッチングを試しません。選択肢の順番を入れ替えると動きます。

しかし我々はプレーンテキストかタグだけを適当にマッチさせたいのではなく、両者のランダムな組合わせをマッチさせたいのでした:

token xml   { <text> [ <tag> <text> ]*  };

([...]はキャプチャしないグループであり、Perl5の(?: ...)と同様です)

いやはや驚くことに、これは最初の2つのテストを両方とも通過します。

3番目のテスト.<ab>foo</ab>ddは開始タグと終了タグの間にテキストがあるので、次はこれを受理しなければいけません。 しかしタグの間に出現できるのはテキストに限らず任意のXMLで在り得るので、<xml>を単に呼ぶことにしましょう:

token tag   {
    '<' (\w+) '>'
    <xml>
    '</' $0   '>'
}

./perl6 xml-05.pl
ok 1 - 'abc'
ok 2 - '<a></a>'
ok 3 - '..<ab>foo</ab>dd'
ok 4 - '<a><b>c</b></a>'
not ok 5 - '<a href="foo"><b>c</b></a>'
(残りはさっきと同じ)

これで属性(href="foo"のやつ)に集中することができます:

token tag   {
    '<' (\w+) <attribute>* '>'
    <xml>
    '</' $0   '>'
};
token attribute {
    \w+ '="' <-["<>]>* \"
};

しかしこれでは新しいテストを通過できるようにはなりません。その原因はタグ名と属性の間にある空白です。 \s+\s*を色んな場所に加える代わりに、tokenrule(:sigspace修飾子を暗黙的にセットします)に切り替えることにします:

rule tag   {
    '<'(\w+) <attribute>* '>'
    <xml>
    '</'$0'>'
};
token attribute {
    \w+ '="' <-["<>]>* \"
};

これで残るテストは最後の2つになりました:

ok 1 - 'abc'
ok 2 - '<a></a>'
ok 3 - '..<ab>foo</ab>dd'
ok 4 - '<a><b>c</b></a>'
ok 5 - '<a href="foo"><b>c</b></a>'
ok 6 - '<a empty="" ><b>c</b></a>'
ok 7 - '<a><b>c</b><c></c></a>'
ok 8 - '<'
ok 9 - '<a>b</b>'
ok 10 - '<a>b</a'
ok 11 - '<a>b</a href="">'
not ok 12 - '<a/>'
not ok 13 - '<a />'

これらは/で閉じられた入れ子になっていないタグを含んでいます。rule tagにこれを追加するのは何の問題もありません:

rule tag   {
    '<'(\w+) <attribute>* [
        | '/>'
        | '>' <xml> '</'$0'>'
    ]
};

全テストが通るようになりました。やった、はじめて作ったグラマーはちゃんと動きます。

さらなるハッキング

グラマーで遊ぶのは遊び方を読むよりずっと楽しいので、これから実装できるものの例を挙げておきます:

  • &amp;のような実体参照を含むことができるプレーンテキスト
  • XMLタグ名が数字で開始して良いのかどうか分かりませんが、現在のグラマーはこれを許しています。必要ならXMLの仕様書を調べてグラマーを改造するのも良いでしょう
  • <![CDATA[ ... ]]>を含むことができるプレーンテキスト。このXML風タグは無視され、<のような文字はエスケープする必要がありません
  • <?xml version="0.9" encoding="utf-8"?>のようなXML宣言を許容し、すべてを包含する単一のルートタグを要求する本物のXML(テストケースをいくつか修正する必要があります)
  • マッチオブジェクト$/を再帰的に走査することでXML用のプリティプリンタを実装できます(これは生半可にはいきません; いくつかRakudoのバグを回避しなければいけないかも知れませんし、キャプチャも新しく導入する必要があるかも知れません)

(解答をこのブログのコメント欄に書かないで下さい; 他の人にも楽しませてあげましょう;-)

ハッキングを楽しんで下さい。

MOTIVATION

強力だし、楽しい

SEE ALSO

正規表現はS05で詳細に規定されています: http://perlcabal.org/syn/S05.html

正規表現とグラマーの動作している(!)例を、Perl6で書かれたWikiエンジンであるNovember projectでもっと見つけることができます。http://github.com/viklund/november/をご覧下さい。

コメント

このブログの人気の投稿

Perl 7 より先に Perl 5.34 が出るぞという話

Perl 5 の次期バージョンとして一部後方互換でない変更 (主に間接オブジェクト記法の削除とベストプラクティスのデフォルトでの有効化) を含んだメジャーバージョンアップである Perl 7 がアナウンスされたのは昨年の 6 月 のことだったが、その前に Perl 5 の次期周期リリースである Perl 5.34 が 5 月にリリース予定 である。 現在開発版は Perl 5.33.8 がリリースされておりユーザから見える変更は凍結、4 月下旬の 5.33.9 で全コードが凍結され 5 月下旬に 5.34.0 としてリリース予定とのこと。 そういうわけで事前に新機能の予習をしておく。 8進数数値リテラルの新構文 見た瞬間「マジかよ」と口に出た。これまで Perl はプレフィクス 0 がついた数値リテラルを8進数と見做してきたが、プレフィクスに 0o (zero, small o) も使えるようになる。 もちろんこれは2進数リテラルの 0b や 16進数リテラルの 0x との一貫性のためである。リテラルと同じ解釈で文字列を数値に変換する組み込み関数 oct も` 新構文を解するようになる。 昨今無数の言語に取り入れられているリテラル記法ではあるが、この記法の問題は o (small o) と 0 (zero) の区別が難しいことで、より悪いことに大文字も合法である: 0O755 Try / Catch 構文 Perl 5 のリリース以来 30 年ほど待たれた実験的「新機能」である。 Perl 5 における例外処理が特別な構文でなかったのは予約語を増やさない配慮だったはずだが、TryCatch とか Try::Tiny のようなモジュールが氾濫して当初の意図が無意味になったというのもあるかも知れない。 use feature qw/ try / ; no warnings qw/ experimental::try / ; try { failable_operation(); } catch ( $e ) { recover_from_error( $e ); } Raku (former Perl 6) だと CATCH (大文字なことに注意) ブロックが自分の宣言されたスコープ内で投げられた例外を捕らえる...

(multi-)term-mode に dirtrack させる zsh の設定

TL;DR .zshrc に以下を書けば良い: # Enable dirtrack on (multi-)term-mode. if [[ " $TERM " = eterm * ]]; then chpwd() { printf '\032/%s\n' " $PWD " } fi 追記 (May 14, 2025): oh-my-zsh を使っていれば emacs プラグインが勝手にやってくれる: plugins = ( emacs ) 仔細 term-mode は Emacs 本体に付属する端末エミュレータである。基本的には Emacs 内でシェルを起動するために使うもので、古い shell-mode よりも端末に近い動きをするので便利なのだが、一つ問題がある。シェル内でディレクトリを移動しても Emacs バッファの PWD がそのままでは追従しない点だ。 こういう追従を Emacs では Directory Tracking (dirtrack) と呼んだりするが、 shell-mode や eshell ではデフォルトで提供しているのに term-mode だけそうではない。 要するにシェル内で cd してもバッファの PWD は開いた時点のもの (基本的には直前にアクティヴだったバッファの PWD を継承する) のままなので、移動したつもりで C-x C-f などをするとパスが違ってアレっとなることになる。 実は term-mode にも dirtrack 機能自体は存在しているのだが、これは シェルがディレクトリ移動を伴うコマンドを実行したときに特定のエスケープシーケンスを含んだ行を印字することで Emacs 側に通知するという仕組み になっている。 Emacs と同じく GNU プロジェクトの成果物である bash は Emacs 内での動作を検出すると自動的にこのような挙動を取るが、zsh は Emacs の事情なんか知ったことではないので手動で設定する必要がある。 まずもって「ディレクトリ移動のコマンドをフックする」必要がある訳だが、zsh の場合これは簡単で cd / pushd / popd のようなディレクトリ...

macOS で GUI 版 Emacs を使う設定

macOS であっても端末エミュレータ上で CLI 版 Emacs を使っているプログラマは多いと思うが、端末側に修飾キーを取られたり東アジア文字の文字幅判定が狂ってウィンドウ描画が崩れたりなどしてあまり良いことがない。 それなら GUI 版の Emacs.app を使った方がマウスも使える上に treemacs などはアイコンも表示されてリッチな UI になる。 しかし何事も完璧とはいかないもので、CLI だと問題なかったものが GUI だと面倒になることがある。その最大の原因はシェルの子プロセスではないという点である。つまり macOS の GUI アプリケーションは launchd が起動しその環境変数やワーキングディレクトリを引き継ぐので、ファイルを開こうとしたらホームディレクトリ ( ~/ ) でなくルートディレクトリ ( / ) を見に行くし、ホームディレクトリなり /opt/local なりに好き勝手にインストールしたツールを run-* 関数やら shell やら flycheck やらで実行しようとしてもパスが通っていない。 ワーキングディレクトリに関しては簡単な解決策があり、 default-directory という変数をホームディレクトリに設定すれば良い。ただし起動時にスプラッシュスクリーンを表示する設定の場合、このバッファのワーキングディレクトリは command-line-default-directory で設定されており、デフォルト値が解決される前に適用されてしまうので併せて明示的に初期化する必要がある: (setq default-directory "~/") (setq command-line-default-directory "~/") 次にパスの問題だが、まさにこの問題を解決するために exec-path-from-shell というパッケージがある。これを使うとユーザのシェル設定を推定し、ログインシェルとして起動した場合の環境変数 PATH と MANPATH を取得して Emacs 上で同じ値を setenv する、という処理をやってくれる。MELPA にあるので package-install するだけで使えるようになる。 このパッケージは GUI ...

Project Euler - Problem 35

問題 原文 How many circular primes are there below one million? 日本語訳 100万未満の巡回素数は何個か? 解答 回転させた数値がすべて素数ということは、すべての桁が奇数でなければいけません(ただし2を除く)。 追記 匿名氏にコメントでご指摘頂いたのでコードを一部修正しました。 いずれかの桁に5がある場合も、回転させると必ず5の倍数が現れるので除外できます。 もっと追記 前の修正に間違いが入っているのをご指摘頂いたので修正しました。 5自体は素数なので、巻き添えで除外してはいけません。 #!/usr/bin/env perl use strict; use warnings; use feature qw/say state/; use List::MoreUtils qw/all none/; sub is_prime($) { state %memos; my $n = shift; return 0 if $n < 2; return 1 if $n == 2; return 1 if $n == 3; return $memos{$n} if exists $memos{$n}; $memos{$n} = none { $n % $_ == 0 } 2 .. sqrt $n; } sub rotate($) { my $n = shift; substr($n, 1) . substr($n, 0, 1); } sub rotations($) { my $n = shift; my %seen = ($n => 1); $seen{$n} = 1 until exists $seen{$n = rotate $n}; keys %seen; } sub is_circular_prime($) { state %memos; my $n = shift; return 0 if $n =~ /[024568]/ and $n != 2 and $n != 5; return $memos{$n} if exists $memos{$n}; my ...

開発環境の構築に asdf が便利なので anyenv から移行した

プロジェクト毎に異なるバージョンの言語処理系やツールを管理するために、pyenv や nodenv など *env の利用はほとんど必須となっている。 これらはほとんど一貫したコマンド体系を提供しており、同じ要領で様々な環境構築ができる非常に便利なソフトウェアだが、それを使うことで別の問題が出てくる: *env 自身の管理である。 無数の *env をインストールし、シェルを設定し、場合によりプラグインを導入し、アップデートに追従するのは非常に面倒な作業だ。 幸いなことにこれをワンストップで解決してくれるソリューションとして anyenv がある。これは各種 *env のパッケージマネージャというべきもので、一度 anyenv をインストールすれば複数の *env を簡単にインストールして利用できる。さらに anyenv-update プラグインを導入すればアップデートまでコマンド一発で完了する。素晴らしい。 そういうわけでもう長いこと anyenv を使ってきた。それで十分だった。 ——のだが、 ここにもう一つ、対抗馬となるツールがある。 asdf である。anyenv に対する asdf の優位性は大きく2つある: 一貫性と多様性だ。 一貫性 “Manage multiple runtime versions with a single CLI tool” という触れ込み通り、asdf は様々な言語やツールの管理について一貫したインタフェースを提供している。対して anyenv は *env をインストールするのみで、各 *env はそれぞれ個別のインタフェースを持っている。 基本的なコマンド体系は元祖である rbenv から大きく外れないにしても、例えば jenv のように単体で処理系を導入する機能を持たないものもある。それらの差異はユーザが把握し対応する必要がある。 多様性 asdf はプラグインシステムを持っている。というより asdf 本体はインタフェースを規定するだけで、環境構築の実務はすべてプラグイン任せである。 そのプラグインの数は本稿を書いている時点でおよそ 300 を数える。これは言語処理系ばかりでなく jq などのユーティリティや MySQL のようなミドルウェアも含むが、いずれにしても膨大なツールが asdf を使えば...