要旨
Perl 5 メジャーバージョンアップの季節がやって来たのでまともな Perl プログラマの嗜みとして perldelta を読んだ。
今回は有り体に言えばルーティン的なリリースで、言語コアの拡張は他言語にも見られる構文が実験的に入ったくらいで大きな変化はない。新機能は RegExp の拡充が主である。
比較的重要と思われる変更点を抜粋する。
新機能
isa
演算子
実験的機能。Python とか Java における isinstance
とか instanceof
。
これまでも UNIVERSAL::isa
があったが、これはメソッドなのでレシーバにオブジェクトでもクラスでもない値 (i.e., 未定義値 / bless
されていないリファレンス) を置くと実行時エラーが起きるのが問題だった:
package Foo {
use Moo;
}
package Bar {
use Moo;
extends 'Foo';
}
package Baz {
use Moo;
}
use feature qw/say/;
sub do_something_with_foo_or_return_undef {
my ($foo) = @_;
# Returns safely if the argument isn't an expected instance, in mind.
return unless $foo->isa('Foo');
...;
}
# OK.
do_something_with_foo(Bar->new);
# |undef| is expected in mind, but actually error will be thrown.
do_something_with_foo(undef);
これを避けるために今までは Scalar::Util::blessed
を併用したりしていたわけだが、isa
演算子は左辺が何であっても意味のある値を返すのでよりシンプルになる:
# True
+(bless +{} => 'Foo') isa Foo;
# False
undef isa Foo;
# False
+{} isa Foo;
# False
+(bless +{} => 'Baz') isa Foo;
比較演算子の連結
Python のアレ。このために比較演算子の結合性が「連結 (chained)」に変更された。
use Math::Round qw/nearest/;
sub PI() { 4 * atan2(1, 1) }
# Rounds to the second decimal place.
sub round($) { nearest(0.01, $_[0]) }
say round sin(0) == round cos(PI / 2) == round sin(PI) != round cos(PI)
? 'sin(0) = cos(π / 2) = sin(π) ≠ cos(π)'
: 'You are in wrong universe.';
連言で繋いだ場合と比べて連結された中間の式の評価回数が一回減ることに注意が必要である; A <= B < C
の式 B は一回しか評価されないのに対して、A <= B and B < C
の場合は高々二回評価される。
my $x = 40;
say $x if 0 <= ++$x < 42; # 41
my $y = 40;
say $y if 0 <= ++$y and ++$y < 42; # Doesn't print.
副作用のある式を混ぜる方がどうかしているといえばそれまでだが。
Unicode Name プロパティ参照
\p{Name=...}
で Unicode 文字を名前 (e.g., “LATIN CAPITAL LETTER A”)で参照できるようになった。これまでも \N
があったが、主な違いは文字列補間が効くことと、名前に対して副パターンでマッチングできる (e.g., (qr!\p{Name=/LATIN CAPITAL LETTER [A-F]/}!
)) ことである。
実験的機能の正式化
Perl 5.28 で実験的機能として導入された正規表現パターンがいくつか標準で警告なしに使えるようになった。
Script Run
ドメイン名スプーフィング (ラテン文字とキリル文字など見た目に区別しづらい字形の文字を混ぜて権威あるサイトに見せかける手法) を検出するのに有用な機能。 (*script_run:...)
ないし (*sr:...)
で囲んだパターンが同一の Unicode Script にある文字で成り立っていない場合バックトラックする。ただし日常的に複数の Script を使う東アジアのいくつかの言語の文字は少し特別扱いされる。
ラテン文字による別名
既存の拡張正規表現に説明的な別名を付ける試み。コア言語の特殊グローバル変数に対する English.pm のような関係だがこれは新しい構文と一緒に導入されたので特に宣言なく利用可能である。
Symbolic | Alias(es) |
---|---|
(?=...) |
(*pla:...) / (*positive_lookahead:...) |
(?!...) |
(*nla:...) / (*negative_lookahead:...) |
(?<=...) |
(*plb:...) / (*positive_lookbehind:...) |
(?<!...) |
(*nlb:...) / (*negative_lookbehind:...) |
(?>...) |
(*atomic:...) |
非互換な変更
字句的定数関数内の変更され得る字句的スコープ変数参照の違法化
Perl は 0 引数で暗黙に値を返す関数を定数としてインライン化するが、実はこの最適化は戻り値として字句的スコープ変数を参照するクロージャにも適用される。 一度インライン化された値は実行時に変更しても反映されないので、定数と認識されたクロージャは一般的なクロージャとは異なる挙動をすることになる:
my $x = 42;
# Constant.
my $K = sub () { $x };
# Closure; Avoiding optiomization by explicit |return|.
my $L = sub () { return $x };
say $K->() + 1; # 43
say $L->() + 1; # 43
$x = 0;
say $K->() + 1; # 43 (!)
say $L->() + 1; # 1
端的に言って最適化器のバグなのだが、Perl は意図した機能かそうでないかに関らず現実に用例がある挙動は変えないのが伝統であった。公式にこの方針が転換されたのは Perl 5.14 からで、実際に廃止予定 (deprecated) 機能の廃止ロードマップ (perldeprecation) が示されたのは Perl 5.26 からである。
この機能に関しては経過措置として Perl 5.22 から警告が出ていたが予定通り廃止された。今後はこのようなサブルーチンを定義することは単に違法であり、コンパイル時に致命的エラーとなる。
なお変更され得ない字句的スコープ変数についてはこれまでどおり参照して良い。ライフサイクルを通して以下のような「変更され得る」操作を受けないのが条件である:
# Error.
$x = 0;
# Error; No matter even if the branch is never reached.
$x = 0 if 0;
# Error; Subroutines can take aliases of arguments so it can be altered.
proc($x);
また字句的スコープでない変数を参照している場合や、クロージャでないサブルーチン定義の場合はそもそもインライン化されないので関係がない:
my $x = 42;
our $y = 42;
# OK; |$y| is not a lexical variable.
my $K = sub () { $y };
# OK; Global subroutines referencing variables are not inlined.
sub L() { $x }
# OK; Ditto, even if lexical subroutines.
use feature qw/lexical_subs/;
my sub M() { $x }
その他
GitHub への移行
https://github.com/Perl/perl5 が Perl 5 のプライマリなリポジトリになった。開発も GitHub の Issues / PRs を使って行われるようになった。 ただし脆弱性の報告は相変わらず非公開のバグトラッカーとメーリングリスト (cf. perldoc perlsec) にて扱われる。
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