スキップしてメイン コンテンツに移動

京大テキストコーパスのパーサを書いた

要旨

CaboCha やなんかの出力形式であるところの京大テキストコーパス形式のパーサモジュールを Perl で書いたので紹介します。

これを使うと例えば CaboCha の出力した係り受け関係を Perl のオブジェクトグラフとして取得できます。

使用例

単なる文節区切りの例。

#!/usr/bin/env perl

use v5.18;
use utf8;
use IPC::Open3;
use Parse::KyotoUniversityTextCorpus;
use Parse::KyotoUniversityTextCorpus::MorphemeParser::MeCab;
use Symbol qw//;

my ($in, $out, $err);
my $pid;

BEGIN {
  ($in, $out, $err) = (Symbol::gensym, Symbol::gensym, Symbol::gensym);
  $pid = open3($in, $out, $err, cabocha => '-f1');
}

END {
  close $out;
  close $err;
  waitpid $pid => 0 if defined $pid;
}

binmode STDOUT, ':encoding(utf8)';
binmode $in, ':encoding(utf8)';
binmode $out, ':encoding(utf8)';

my $parser = Parse::KyotoUniversityTextCorpus->new(
  morpheme_parser =>
    Parse::KyotoUniversityTextCorpus::MorphemeParser::MeCab->new,
);

say $in '星から出るのに、その子は渡り鳥を使ったんだと思う。';
say $in '出る日の朝、自分の星の片付けをした。';
close $in;
my $sentence_trees = $parser->parse(fh => $out);
for my $sentence_tree (@$sentence_trees) {
  for my $chunk (@{ $sentence_tree->as_arrayref }) {
    printf(
      "\%d: \%s -> \%d\n",
      $chunk->id,
      $chunk->surface,
      $chunk->is_root ? '-1' : $chunk->dependency->id,
    );
  }
  print "\n";
}

実行すると:

0: 星から -> 1
1: 出るのに、 -> 5
2: その -> 3
3: 子は -> 5
4: 渡り鳥を -> 5
5: 使ったんだと -> 6
6: 思う。 -> -1

0: 出る -> 1
1: 日の -> 2 
2: 朝、 -> 6 
3: 自分の -> 4
4: 星の -> 5
5: 片付けを -> 6
6: した。 -> -1

立志

日本語係り受け解析器 CaboCha1 は大変便利ですごく便利ですが (便利なので2回言いました) 公式の Perl バインディングは SWIG 製で API 的にあんまり良い感じじゃないし CPAN にも上がっていないのが悲しい点です。MeCab に対する Text::MeCab のような素敵なバインディングも今のところありません。

簡単に使って幸せになるには cabocha コマンドをパイプで繋いで出力をパースするのが手っ取り早いです。CaboCha の出力形式には人間用のツリー形式の他に京都大学テキストコーパス (以下 KC)2/XML/CoNLL の各形式があります。 この中でパースし易いのは XML 形式ですが、これは CaboCha の独自形式 (だと思う) なので対応してもあまり面白くありません。KC 形式と CoNLL 形式は他のツールでも使われています。例えば日本語の構文解析器として CaboCha の他に KNP3 や J.DepP4 が知られていて、これらも KC 形式で出力ができるので必要になったら CaboCha から切り替えて使えます。多分これを処理する車輪は知の高速道路の路肩に一杯転がっているはずなんですが、見つからなくて辛いので自分で書くことにしました。

導入

Tarball を cpanm で突っこむのが早いです:

cpanm http://sekia.github.io/Parse-KyotoUniversityTextCorpus-0.01.tar.gz

リポジトリから最新版を入れる場合は Dist::Zilla (dzil) でビルドする必要があります:

git clone git@github.com/sekia/Parse-KyotoUniversityTextCorpus.git
cd Parse-KyotoUniversityTextCorpus
dzil install

そのうち CPAN に上げるので気の長い人はそれまで待っててください。

使い方

だいたい perldoc 参照ですが Parse::KyotoUniversityTextCorpusnew して parse したら係り受け関係の木構造の根 (即ち最後の文節) に相当する Parse::KyotoUniversityTextCorpus::Chunk を含んだ配列リファレンスが返ってくるので、ここからトラバースするのが基本的な使い方です。 上のコード例のように as_arrayref を呼ぶと文節が順番に並んだ配列リファレンスが返ってくるので単に文節を分割したいだけの時なんかは便利です。

MorphemeParser について

KC の文節中の形態素の出力形式は形態素解析器 JUMAN のものですが、CaboCha は内部で MeCab を使っているので当然 MeCab の形式になります。また MeCab は出力形式や辞書が設定で変更できるので、KC 形式でも形態素の出力形式は様々あることになります。 なので Parse::KyotoUniversityTextCorpus では形態素のパースはせず、一行一形態素とみなして MorphemeParser というオブジェクトに丸投げするようになっています。 ディストリビューションに含まれている MorphemeParser は Parse::KyotoUniversityTextCorpus::MorphemeParser::MeCab で、これは IPA 辞書を使った MeCab が出力するデフォルトの出力をパースできます。JUMAN とか ChaSen とか Unidic を使った MeCab とかの形式がパースしたい人は頑張って自分で書いてください。

TODO

  • Chunk にもっとメソッドを生やす
  • JUMAN の MorphemeParser も追加する
  • CPAN にアップロード

コメント

このブログの人気の投稿

BuckleScript が ReScript に改称し独自言語を導入した

Via: BuckleScript Good and Bad News - Psellos OCaml / ReasonML 文法と標準ライブラリを採用した JavaScript トランスパイラである BuckleScript が ReScript に改称した。 公式サイトによると改称の理由は、 Unifying the tools in one coherent platform and core team allows us to build features that wouldn’t be possible in the original BuckleScript + Reason setup. (単一のプラットフォームとコアチームにツールを統合することで従来の BuckleScript + Reason 体制では不可能であった機能開発が可能になる) とのこと。要は Facebook が主導する外部プロジェクトである ReasonML に依存せずに開発を進めていくためにフォークするという話で、Chromium のレンダリングエンジンが Apple の WebKit から Google 主導の Blink に切り替わったのと似た動機である (プログラミング言語の分野でも Object Pascal が Pascal を逸脱して Delphi Language になったとか PLT Scheme (の第一言語) が RnRS とは別路線に舵を切って Racket になったとか、割とよくある話である。) 公式ブログの Q&A によると OCaml / ReasonML 文法のサポートは継続され、既存の BuckleScript プロジェクトは問題なくビルドできるとのこと。ただし現時点で公式ドキュメントは ReScript 文法のみに言及しているなど、サポート水準のティアを分けて ReScript 文法を優遇することで移行を推進していく方針である。 上流である OCaml の更新は取り込み、AST の互換性も維持される。将来 ReScript から言語機能が削除されることは有り得るが、OCaml / ReasonML からは今日の BuckleScript が提供する機能すべてにアクセスできる。 現時点における ReScript の ...

Perl のサブルーチンシグネチャ早見表

Perl のサブルーチン引数といえば実引数への参照を保持する特殊配列 @_ を手続き的に分解するのが長らくの伝統だった。これはシェルの特殊変数 $@ に由来する意味論で、おそらく JavaScript の arguments 変数にも影響を与えている。 すべての Perl サブルーチンはプロトタイプ宣言がない限りリスト演算子なので、この流儀は一種合理的でもあるのだが、実用的にそれで良いかというとまったくそうではないという問題があった; 結局大多数のサブルーチンは定数個の引数を取るので、それを参照する形式的パラメータが宣言できる方が都合が良いのである。 そういうわけで実験的に導入されたサブルーチンシグネチャ機能により形式的パラメータが宣言できるようになったのは Perl 5.20 からである。その後 Perl 5.28 において出現位置がサブルーチン属性の後に移動したことを除けば Perl 5.34 リリース前夜の今まで基本的に変わっておらず、未だに実験的機能のままである。 おまじない シグネチャは前方互換性を持たない (構文的にプロトタイプと衝突している) 実験的機能なのでデフォルトでは無効になっている。 そのため明示的にプラグマで利用を宣言しなければならない: use feature qw/signatures/; no warnings qw/experimental::signatures/; どの途みんな say 関数のために使うので feature プラグマは問題ないだろう。実験的機能を断りなしに使うと怒られるので、 no warnings で確信犯であることをアピールする必要がある。 これでプラグマのスコープにおいてサブルーチンシグネチャ (と :prototype 属性; 後述) が利用可能になり、 従来のプロトタイプ構文が無効になる。 使い方 対訳を載せておく。シグネチャの方は実行時に引数チェックを行うので厳密には等価でないことに注意: # Old School use feature qw/signatures/ 1 sub f { my ($x) = @_; ... } sub f($x) { ... } 2 sub f { my ($x, undef, $y) = @_...

(multi-)term-mode に dirtrack させる zsh の設定

TL;DR .zshrc に以下を書けば良い: # Enable dirtrack on(multi-)term-mode. if [[ " $TERM " = eterm * ]]; then chpwd() { printf '\032/%s\n' " $PWD " } fi 追記 (May 14, 2025): oh-my-zsh を使っていれば emacs プラグインが勝手にやってくれる: plugins = ( emacs ) 仔細 term-mode は Emacs 本体に付属する端末エミュレータである。基本的には Emacs 内でシェルを起動するために使うもので、古い shell-mode よりも端末に近い動きをするので便利なのだが、一つ問題がある。シェル内でディレクトリを移動しても Emacs バッファの PWD がそのままでは追従しない点だ。 こういう追従を Emacs では Directory Tracking (dirtrack) と呼んだりするが、 shell-mode や eshell ではデフォルトで提供しているのに term-mode だけそうではない。 要するにシェル内で cd してもバッファの PWD は開いた時点のもの (基本的には直前にアクティヴだったバッファの PWD を継承する) のままなので、移動したつもりで C-x C-f などをするとパスが違ってアレっとなることになる。 実は term-mode にも dirtrack 機能自体は存在しているのだが、これは シェルがディレクトリ移動を伴うコマンドを実行したときに特定のエスケープシーケンスを含んだ行を印字することで Emacs 側に通知するという仕組み になっている。 Emacs と同じく GNU プロジェクトの成果物である bash は Emacs 内での動作を検出すると自動的にこのような挙動を取るが、zsh は Emacs の事情なんか知ったことではないので手動で設定する必要がある。 まずもって「ディレクトリ移動のコマンドをフックする」必要がある訳だが、zsh の場合これは簡単で cd / pushd / popd のようなディレクトリ移...

Perl 7 より先に Perl 5.34 が出るぞという話

Perl 5 の次期バージョンとして一部後方互換でない変更 (主に間接オブジェクト記法の削除とベストプラクティスのデフォルトでの有効化) を含んだメジャーバージョンアップである Perl 7 がアナウンスされたのは昨年の 6 月 のことだったが、その前に Perl 5 の次期周期リリースである Perl 5.34 が 5 月にリリース予定 である。 現在開発版は Perl 5.33.8 がリリースされておりユーザから見える変更は凍結、4 月下旬の 5.33.9 で全コードが凍結され 5 月下旬に 5.34.0 としてリリース予定とのこと。 そういうわけで事前に新機能の予習をしておく。 8進数数値リテラルの新構文 見た瞬間「マジかよ」と口に出た。これまで Perl はプレフィクス 0 がついた数値リテラルを8進数と見做してきたが、プレフィクスに 0o (zero, small o) も使えるようになる。 もちろんこれは2進数リテラルの 0b や 16進数リテラルの 0x との一貫性のためである。リテラルと同じ解釈で文字列を数値に変換する組み込み関数 oct も` 新構文を解するようになる。 昨今無数の言語に取り入れられているリテラル記法ではあるが、この記法の問題は o (small o) と 0 (zero) の区別が難しいことで、より悪いことに大文字も合法である: 0O755 Try / Catch 構文 Perl 5 のリリース以来 30 年ほど待たれた実験的「新機能」である。 Perl 5 における例外処理が特別な構文でなかったのは予約語を増やさない配慮だったはずだが、TryCatch とか Try::Tiny のようなモジュールが氾濫して当初の意図が無意味になったというのもあるかも知れない。 use feature qw/ try / ; no warnings qw/ experimental::try / ; try { failable_operation(); } catch ( $e ) { recover_from_error( $e ); } Raku (former Perl 6) だと CATCH (大文字なことに注意) ブロックが自分の宣言されたスコープ内で投げられた例外を捕らえる...

Perl の新 class 構文を使ってみる

Perl 5 のオブジェクト指向機能は基本的には Python の影響を受けたものだが、データを名前空間 (package) に bless する機構だけで Perl 4 以来の名前空間とサブルーチンをそのままクラスとメソッドに転換し第一級のオブジェクト指向システムとした言語設計は驚嘆に価する。 実際この言語のオブジェクトシステムは動的型付言語のオブジェクト指向プログラミングに要求されるおよそあらゆる機能を暗にサポートしており、CPAN には Moose を筆頭とした屋下屋オブジェクトシステムが複数存在しているがその多くは Pure Perl ライブラリである。つまり「やろうと思えば全部手書きで実現できる」わけである。 そういうわけで Perl のオブジェクト指向プログラミングサポートは機能面では (静的型検査の不在という現代的には極めて重大な欠如を除けば) 申し分ないのだが、しかし Moose その他の存在が示しているように一つ明らかな欠点がある。記述の冗長さだ。 コンストラクタを含むあらゆるメソッドは第一引数としてレシーバを受ける単なるサブルーチンとして明示的に書く必要があるし、オブジェクトのインスタンス変数 (a.k.a. プロパティ / データメンバ) は bless されたデータに直接的ないし間接的に プログラマ定義の方法 で格納されるためアクセス手段は実装依存である。これはカプセル化の観点からは望ましい性質だが、他者の書いたクラスを継承するときに問題となる。ある日データ表現を変更した親クラスがリリースされると突然自分の書いた子クラスが実行時エラーを起こすようになるわけだ。 そうならないためにはインスタンス変数へのアクセスに (protected な) アクセサを使う必要があるのだが、そのためには親クラスが明示的にそれらを提供している必要があるし、そもそも Perl にはメソッドのアクセス修飾子というものがないので完全な制御を与えるならばオブジェクトの内部状態がすべて public になってしまう。 そのような事情もあり、特にパフォーマンスが問題にならないようなアプリケーションコードでは Moose のようなリッチな語彙を提供するオブジェクトシステムを使うことが 公式のチュートリアルでも推奨 されてきた。Perl コアのオブジェクトシステムの改良は...