これまでブログではデスマス調を用いていたけれども、推敲が要って面倒に思ったのでときどきはデアル調で書くことにする。
YAPC::Asia Tokyo 2015 が終わった。
既に終了から二ヶ月が経っているが「ブログに書くまでが YAPC」とのことで、これには期限が指定されていないので結局書かなかった昨年の分もまとめて終わらせても良かろうとて本稿を書いている。 目を開けねばいつまでも不思議の国にあるような感じで、ブログを書かねばいつまでもお祭りナノダとブンガク的怠惰的主張を述べようかとも思ったけれど、アラサー男がアリスなど引用しても薄ら寒いばかりなので止めにする。
落とし物
私的には今回最大の事件は前夜祭のちの二次会みたいなものに向かう途中の電車でマネークリップを落としたことだった。結局翌日 JR に4度ほど問合せたところ何故か渋谷駅に現金も手つかずで届けられていてことなきを得た (オモテナシはあながちでまかせとも言えないことが分かった) が、クレジットカードを再発行したために (僕はカードを一枚しか持っていないので) 一週間ほどオンラインの決済ができなかったり大変に生活に支障があった。
これまでの YAPC とのかかわり (フリーライダとして)
東京に越してきてからは毎年 YAPC::Asia に参加していた。特に熱心だったわけではなく、勤務先がスポンサーなのでチケットがただで手に入るし平日は業務扱いで参加できたからである。 2012年だったか岡山の院生だったときに旅費の補助があるというので一度 Lightning Talk (LT) をしたことがあるが、そのときを別にすれば見る方ばかりの参加だった。 ちなみにそのときの LT (動画が YouTube に上がっているが見たくないのでリンクもしない。スライドは以前のブログ記事のどこかにある) は要するに研究室の愚痴で、いかにも Perl 4 然としたコードを矯正するといった趣旨だった。
今年のトークについて
Rakudo 及び MoarVM 開発者の Jonathan Worthington 氏の "Parallelism, Concurrency, and Asynchrony in Perl 6" は Perl 6 の {並列, 平行, 非同期} 処理機能の紹介で大変に面白かった。二日目は昼過ぎから会場に向かったので現地で聴けたわけではなく、YouTube に動画が公開されてから観たのだけれども。
今年は Perl 6 のリリースが予定されておりある程度は界隈の関心を買うと思われるので、キャッチアップして簡単な解説を書くつもりでいる。先月に会社のブログの当番が回ってきたので丁度良いと思い Perl 6 の導入みたいな記事を一つ書いた。Twitter などで好意的な反応がそこそこあったが、時間をかけた割に尻切れトンボだし解説が抽象的すぎてためにならないあたり不満が残る。今の時点だと公式ドキュメントの翻訳や解説でもそれなりに価値があると思われるので、下手に構成せずに安直に進めたい。
なお以前翻訳した記事のシリーズである Perl 5 to 6 は現在もそのまま通用するので Perl 5 プログラマ向けのチュートリアルとして有益だと思う。
現地で観たトークの中では京大マイコンクラブ (KMC) の Hideaki Nagamine 氏の「PietでLISP処理系を書くのは難しい」が面白かった。 タイトルがほぼ出オチだが、画像ファイルをソースコードとする特異な難解プログラミング言語 Piet を用いて Lisp インタプリタを作ろうとしたという話。Piet インタプリタはスタック一本のプッシュダウンオートマトンのようなものなので、それに与える命令列からソース画像を逆コンパイルする手法で文字通りエンコードしていたのが大変にハッカーらしくて面白かった。結局環境がうまくキャプチャできずに字句的スコープがうまく動作しなかったという結末だったが、そもそも Piet 自体がチューリング完全ではない気がする。
僕が KMC という名前をはじめて知ったのは高専生だった頃に某氏が持ってきた「熊カレー」というゲームがきっかけだったので、大変微妙なサークルなのだと思っていたのだが、どっこい競技プログラミングガチ勢の名産地でもあったりするし、要は賢い人の頭をアイドル状態にしておくと変なものができるのだろう。
Piet 処理系についての閑話
ところで Piet の処理系として一番有名なのは多分 Perl で実装された Piet::Interpreter だが、Piet のサイトでも言及されているように白ブロック中での移動処理にバグがある。さらに悪いことにこのバグを前提として描かれた (書かれた、ではない) コードも数多くある。したがって処理系を実装しようとするときはまず正しい処理系で動くソースコードを見極めなければならない。
以前 YAP (センスの欠片もないがそのまま Yet Another Piet Interpreter の意である) という名前で Perl で自前実装してみたことがあり、この時はそのバグを再現するモードを追加したりしてコードが無用に複雑になった。ちなみに Perl プログラマが一度はかかる「Moooose はしか」に罹っていた時期に書いたので実にオブジェクト指向で実にモジュラな重量級の実装だった。 YAPC::Asia のトークを見てもう一度実装してみようと思い、それで今度は OCaml で書いた。自分で言うと馬鹿みたいだが簡潔で良い。OCaml を使ってまとまった量のコードを書いたのは始めてだが、代数的データ構造に対する強力な静的型検査がコーディング中の不安感を払拭してくれた。ここに至ってようやく僕は静的型システムの優位を認識できた。
閑話休題
最後の YAPC::Asia は「外野」として参加しても十分に実のあるカンファレンスだったことはとても良かった。うすら寒い内輪ネタもないことはないが参加者が多いので無視できた。
YAPC::Asia は Web 界隈の話題、特に運用ノウハウであるとかサービスのアーキテクチャの話題が充実していて、Perl が全く関係ないトークが過半といった印象の、最早 P の起源が摩滅しきっている点が特徴だと認識しているが、その勘定を別にしても Perl 5 から人の心が離れていると感じた。Perl 6 への注目も今年出るというだけが理由ではないだろう。
Paul Graham が云うように「良い言語には人気がなければだめだ」。今のところ Perl 5 は比較的巨大なユーザベースを持っているけれども、早ければ2010年代の終わりには発展が止まった言語になるだろうと思う。 本来の用途であったシステム管理などにはこれからも (Python といくらか競合しつつ) 利用されるだろうけれど、それは既に必要なものが揃っているからであって新しい用途に開いているからではない。
これから Perl 6 がどれだけのユーザを繋ぎ止められるかは分からない。そこが影横たわるモルドールの国でない保証もないが、いずれにせよ Perl Monger には是非もない。
いろいろと取り留めもなく述べたけれどこれでおしまい。
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